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図書紹介   『人は成熟するにつれて若くなる』           ヘルマン・ヘッセ   

 V・ミヒェルス編/岡田朝雄訳
草思社

 ヘルマン・ヘッセと言えば、私にとっては学生時代を象徴する作家名であった。卒業後数十年、その名前はほとんど目にすることなく、今ではその頃読んだ本の一冊も家には残っていない。
 そろそろ定年も近くなって、老後をどのように過ごそうかという思いが頭をよぎるある日曜日、教会の2階の図書室の棚に、ヘルマン・ヘッセという名前を発見した。「人は成熟するにつれて若くなる」というその本のタイトルに、一気に惹き付けられて、さっそく貸し出してもらった。
 その文章は新鮮であった。学生時代にはこの作者の何に感銘を受けていたのか、今ではさだかではない。ヘッセという作家像は、彼の作品の主人公のように、不安と希望を象徴する若者の姿と重なっていた。考えてみれば、ヘッセは1962年膨大な数の作品を残して、85才で亡くなっている 。私が「車輪の下に」や「ダミアン」を読んでいたころ、彼はすでに“老人になること”、“死を迎えること”への深い思索を重ね、多くの詩やエッセイに書き残していたことになる。
 「人は成熟するにつれて若くなる」は、1995年、ヘッセの研究者であるV・ミヒェルスによって編集出版された遺稿集で、そのタイトルも編者があとにつけたものである。その解説によると、ヘッセの人生の大半は、その高い知性と精神的強さのゆえに、内面的葛藤と外部からの危険の脅威との戦いにさらされたものであった。晩年になって、戦争も終わり、ノーベル文学賞をはじめ、数々の栄誉を受けて世界に受け入れられて後も、市民権を得た亡命先のスイスの田舎で、美しい湖の見える地に住み、畑を耕しながら、思索と創作の日々を過ごした。この本は、その頃の作品が多くを占めているものと思われる。
 もしも、神様が願いを聞き入れてくださるならば、私もそのような田舎の美しい自然の中で、畑を耕しながら、ヘルマン・ヘッセの数え切れない作品を年代を追って、読んでみたいと願っている。
               

 (木下典子)


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