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図書紹介   トルストイ『戦争と平和』再読              

 以前、学生さんによく言ったものだ。これを読まないのは人生の重大な損失ですよと。
トルストイ『戦争と平和』である。最近再読した。一八一二年、ナポレオンのモスクワ侵攻時の、 農民から貴族にいたるまでのロシアのすべて人々を描いた物語である。読んでいると忘却していた場面が次々と鮮明に蘇る。蘇りを経験することが再読の功徳なのである。その一つ。主人公の一人、フランス軍の捕虜になり、カラターエフの死に遭遇し、憔悴しきったピエールが夢を見る。
とうに忘れていた温和な老教師の姿が、ピエールの心に蘇る。スイスで勉強していたときの地理の先生である。老教師はピエールに地球儀を見せた。それは不思議にも一定の形をもたず、生きて動いている球体である。球の表面は一面にぴったりとくっつきあった水の滴からできている。老教師は言った。「中心には神がいる。そして、どの滴もできるだけ大きく神を映そうとして一所懸命にひろがろうとしているのだ。滴は大きくなったり、溶けあったり縮まったりする。そして表面で姿を消したものはいったん底の方へ隠れて、また再び呼び出される。ほら、これがカラターエフだ。そら、ひろがって姿を消した。わかったろう。おまえ。」この夢が『戦争と平和』全体を語っているようである。戦争と平和のなかでの「滴」としての人間の生と死の、これは感動的な物語である。この長大な名作の悠久の流れに一度身を投じてみてはいかがでしょうか。       
                                             (小松原千里)

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