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図書紹介 
   「心的外傷と回復」
                                      ジュディス・L・ハーマン
                                           みすず書房

 余りに有名な本なので既に読まれた方も多いと思いますが、あえて紹介します。
 ハーマンは女性の立場から「闘う精神科医」として性犯罪被害者に強い共感をもってPTSDの疾患概念確立に深く携ったいわば大御所です。
 これほど毀誉褒貶相半ばする本も珍しく、日本では全国の医学部学生が競ってこの本の抄読会を行っているのに対し、本家の米国でハーマンは今や非難の対象となっています。PTSDは本来戦場で心の傷を負って戦えなくなった兵士を「再生」して戦場へと送り出すべく研究され、高度の政治性を有する概念でした。豊富な予算の裏づけもあったのです。
 ハーマンは弱者の立場からこの問題にかかわり、いわば異端の存在でした。そして小児期の性的虐待に関する法廷闘争問題でロフタスと正面衝突して今や旗色悪しというところでしょうか。
 今一つ述べておかなければならいのがハーマンの徹底した反教会的立場です。これは、第一章を読んでいただければ分かりますが、魔女裁判などを通じてヒステリーの問題に徹底的に敵対した中世教会への不信感が根底にあるようです。
 しかし、こうした問題を抜きにしてもこの本はきわめて良く書かれており、心的外傷の問題を扱う人にとって必読の書となっています。それにしても、かつてヒステリーと呼ばれたPTSDの歴史は、偏見と差別の歴史であったことがわかります。
 日本語版は中井先生の名訳で出版されていますが、ハーマンの英語は端正で美しく、ちょっと皮肉なことにキリスト教の教養に溢れています。私はこの素晴らしい文章に惹かれて原文で二度繰り返して読みました。                                 
                                               (山本恭助)

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