ホーム六甲教会についてお問い合わせ
図書紹介     『通訳ダニエル・シュタイン』(上・下)

                                  リュドミラ・ウリツカヤ著(前田和泉 訳)
                                  新潮社(2006年原作、2009年8月邦訳出版)       

 人と人、神と人をつないだ「通訳」ユダヤ人神父の波乱の生涯をロシア人作家、ウリツカヤ(1943年、旧ソ連バシキール自治共和国生まれ。モスクワ在住。)が描いた。
 ダニエル(主人公)は大戦中、ユダヤ系ポーランド人であることを隠してゲシュタポの通訳を務め、同胞を救う。戦後はカトリックに改宗し、イスラエルに渡る。実在した神父の波乱の生涯を描いたこの小説は、ホロコーストから中東紛争に至るユダヤ人の現代史そのもの。内容は非常に深遠で、私の「感想」など空虚に思える逸品でした。考えさせられた一節を引用します。

・・・明け方5時頃、射撃音がしばらく続くのが聞こえました。それは「ヨード作戦」でした。ゲットーに残った人達を射殺しているのです。私の人生で最も恐ろしい夜でした。私は泣きました。すっかり打ちのめされていました    神はどこにいるのでしょう?このようなことが起きている間、神はいったいどこに?どうして神は私を追手から隠し、ゲットーの500人、子供たちや年寄り、病人たちには慈悲を与えてくださらなかったのでしょう?いったいどこに神の公正さがあるというのでしょう?私は立ち上がってそちらに行きたいと思いました。彼らと共にいるために。でも、立ち上がる力はありませんでした。
<略>
 私は初めて新約聖書を通読し、その時私を最も悩ませていた問いに対する答えを得ました。その問いとは、「エムスクのゲットーにいた500人が射殺されている間、いったい神はどこにいたのか?」ということです。我が民族がこうした様々なできごとを耐え忍んでいるのに、神はいったいどこにおられるのでしょう?そして、どのように神の公正さに対すれば良いのでしょう?その時、私には分かったのです    神は苦しむ者たちと共にあったのだ、と。神は苦しむ者たちと共にしか存在し得ず、決して殺人者たちと一緒にいることはないのです。神は、私たちと共に殺されていたのです。ユダヤ人たちと一緒になって苦しむ神こそが、私の神でした。イエスは本当にメシアであり、その死と復活は、まさしく私の問いに対する答えなのだということを、私は悟りました。

 ダニエルは「イエスが人々の心を開き、そして人々は彼の名において憎しみと悪意から解き放たれたのだ」と信じ、イエスと生きる道を選びます。作品は長く、最初は慎重に読まないと筋が追えなくなりますが、峠を越すと一気に読み進めます。是非読書され、ダニエル神父を通して主なる神を感じて下さい。

 さて、著者のウリツカヤは来日のインタビューにて次のような面白いことを述べていました。『アブラハムから由来する3宗教(ユダヤ、キリスト、イスラム)はすごい攻撃性をもっていると思う。仏教など穏やかな宗教から学ぶことは多いのではないか。だからわたしは、東洋に深い関心を持っています。前回日本に来たときに丁度、人々が桜をめでているのを見て、我々とは違う感覚を持っていると感じました。こういう行動は人間の攻撃性を鎮める意味で大きな意味があるのではないでしょうか。』
                                         (山本)


 

ページ先頭へ ホームへ
 六甲教会について お問い合わせ
(C) Copyright 2002 Rokko Catholic Church. All Rights Reserved.